球体の氷であることが最大の意味を持つ
夏のデザートコースの1品目、
「桃のキャラメリゼ」を紹介しよう。

果物は
その皮と果実の際際にこそ
一番香りも栄養も旨味も持つので
桃も皮ごといただくのが私は鉄則。

皮ごと桃をキャラメリゼしていくと
まだどこかあどけない気すらする
薄いピンク色が
みるみる妖艶な濃い紅色に変化し
その色気で誘うかのごとく
室内は甘い芳香に包まれる

透き通った球体の氷に
キャラメリゼしたばかりの桃を
そっと立てかけると
桃はその氷によって冷やされる
冷たい氷に触れた瞬間
わずかに冷気が可視化され
期待で高揚感を得られるに違いない

球体の氷で冷やされる桃の接点が
「面」でなく「点」であることで
そこに大きく温度差が生まれる
口にした桃はまだ温かく
でも一点だけが ”強く” 冷たいことで
脳は「冷たい」を意識する。
温かい桃をいただいているのにもかかわらず。

キャラメルゼのカリカリと
ジューシーな桃の
対照的な食感を感じながら
鼻を抜けるバラ科の桃の
甘く華やかな香りを感じ
と同時に
様々な温度帯が一度に襲ってくるのを
捉えなければいけない。

さあ困った。

忙しくて楽しくて
人生で
桃とこんなに向き合ったことがないくらい
神経を研ぎ澄まし
五感を総動員して
この桃と戦って欲しい

心構えは大丈夫だろうか

私のデザートを写真に収めて見ることが
いかに無意味なことか

痛感するはずだ。